動物実験から分かってきた睡眠物質

20世紀始めフランスにピエロンという心理学者がいました。
心理学の他、病理学や睡眠に付いての研究でも功績を挙げた人物です。

彼の実験の中に、長期間睡眠をとらせずにいた犬の脳脊髄液を健康な犬に注射したところ、その犬も睡眠状態になることを発見したのです。

当時このことは、睡眠をとらないでいると睡眠を要求する物質が脳内にたまりこれが睡眠を招くと考えられたのです。
これが睡眠ホルモンに関する研究の第一歩だったのです。

猫の実験から分かった睡眠ホルモン

しかし、その後長らく睡眠ホルモンに関する研究は進展をみず第二次大戦後になって睡眠の本格的な研究が進み始めたのです。

西ドイツで行なわれた研究では、2匹の猫の頚動脈を交叉させ互いの血液を交換させるというものでした。
いくら動物実験とはいえかなり乱暴なやり方ですが、この実験では1匹の猫を眠らせるともう1匹もすぐに眠り出すということが分かったのです。

この結果は眠った猫から睡眠ホルモンが分泌されもう1匹に移ったと考えられたのです。
こうして睡眠ホルモンの存在が認識され更に研究が進んでいきます。

デルタ波とペプチド

戦後は脳波の研究も進んでいます。
脳波のなかでもデルタ波は睡眠時特有のもので健康な人の覚醒時にはほとんど測定されないものです。
睡眠時、特にノンレム睡眠(深い眠り)時にはこの高振幅の脳波が50%以上測定されています。

研究結果では睡眠ホルモンがデルタ波を増やすことが確認されました。
この睡眠ホルモンは「デルタ睡眠誘発ペプチド」と名付けられています。
ペプチドとはアミノ酸の結合物質ですが、その後の研究では以下のことも分かり今も研究が進められています。

  • このペプチドでも眠らない例が存在すること
  • ノンレム睡眠だけでなくレム睡眠も増えること
  • 睡眠時にデルタ波だけが増えるのではないこと

日本での研究はネズミから

日本では睡眠研究の第一人者井上昌次郎氏による研究が進みました。
睡眠をとらせずにいたネズミの脳幹抽出物の中に睡眠を促進させるのに有効な物質を発見し、これらを睡眠促進物質(SPS)と名付けています。

その後、更に研究は進み具体的なSPSも特定されていきます。
リボ核酸の構成物質であるウリジンや血小板や血圧に作用するプロスタグランジンなどです。

特にプロスタグランジンでは睡眠を促すD2と覚醒を促すE2があることも分かり、その他10種類位があってそれぞれ異なる働きをしていることも分かったのです。

これ以降、睡眠ホルモンに関しての研究は飛躍的な進歩をし、プロラクチン・成長ホルモン・ソマトスタチン・メラトニン・セロトニン・インターロイキン等のアミン類やステロイドホルモン類などが睡眠ホルモンとして研究対象となっています。

睡眠ホルモンの作用

睡眠にとって睡眠ホルモンは大量にあればよいというわけではありません。
研究からは多過ぎても少な過ぎても効果はないといわれているのです。

睡眠ホルモンは単に睡眠を促進するだけではありません。
睡眠とは別の1次的な作用があるのです。
人間の成長・抗炎作用・免疫・抗酸化作用・性の分化・体温維持など身体の健康と恒常性の維持にかかせないものです。

つまり2次的な作用として、これらの睡眠ホルモンが相互作用で睡眠を促進し、睡眠時間の調節を行っていると考えられているのです。

睡眠ホルモンのこれからの研究は?

これからの研究では大きく3つに分けられるでしょう。

一つは睡眠障害に陥った場合の医療薬としての効果です。
睡眠ホルモンはもともと身体の中で作られるものですから、一般の睡眠薬のような化学薬品とは違い、大量に取ったとしても副作用はあまり心配はないようです。

また免疫作用もあるといわれているため、睡眠以外の医薬品としても期待が大きいのです。

もう一つは睡眠の意味です。
先ほど睡眠ホルモンが促進する睡眠は2次的な意味と述べましたが、逆にいえば睡眠が健康に重大な意味を持つことになるのです。

具体的には人間の成長や病気やケガなどの治癒、老化現象に睡眠がどういう意味をもたらすかということです。

3つめは人間の生体リズムと睡眠ホルモンの関係です。
生理的な生体リズムと睡眠ホルモンはどう関係しているのか具体的にはよく分かっていないようです。

まるで鶏と卵のような関係ですが、睡眠の科学的な研究が進めばどちらが主でどちらが従なのかはっきりするのではないでしょうか。

今後の更なる研究に期待したいと思います。

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